糖質制限の話の際によく挙げられるのが、“イヌイット”は糖質を摂取していないが健康だし、糖尿病も少ない…という議論。今回は、そんなイヌイットの食事について、まずは理解することから始めてみましょう。

糖質を摂取しない!イヌイットとその食事

イヌイットは、カナダ北部やグリーンランドなどの氷雪地帯に住む民族で、日本人と同じモンゴロイドです。

イヌイットの伝統的な食生活は、狩猟で得た生肉が中心とされています。アザラシやセイウチなどの海獣、ホッキョクウサギなどの陸上動物、タラなどの魚類、また鳥類を食べていると言われています。
イヌイットの暮らす極寒の地は、農業に適した土地とは言えません。そのため野菜や果物、穀物はあまり食べないと言われています。

Inuit

肉類を中心とするイヌイットの食事では、得られる総摂取エネルギーのうち、脂質が占める割合が非常に高いと言われています。
「脂質をたくさん摂り、加えて野菜や果物をほとんど食べない食生活」と聞いて、どのような印象を受けるでしょうか?おそらく「健康によくないのでは」と思う人が多いのではないかと思います。

ところがその一方で、イヌイットの特徴的な食生活は、健康によいという理由から注目されることが多いようです。また、イヌイットには糖尿病や急性心筋梗塞、ガンなどの疾病が少ないと言われています。なぜそのような結果が出ているのでしょうか?

イヌイットが栄養不足にならないわけ

ビタミンやミネラルは、健康的な食生活に欠かせないものとされています。普段の食生活の中で「ビタミンやミネラルを摂る」といえば、おそらく野菜や果物を思い浮かべる人が多いことでしょう。

野菜や果物をほとんど食べないイヌイットの食事で、これらの栄養素を補うことができるのは、イヌイットが生肉を食べるためだと言われています。

肉から摂れる栄養素といえば、タンパク質と脂質ですが、生肉にはビタミンやミネラルなどの栄養素も、バランスよく含まれているとされています。そのため、野菜などの食材をあまり食べなくても、必要な栄養素を摂取することができるようです。

伝統的な発酵食品も貴重なビタミン源に

伝統的なイヌイットの発酵食品に、「キビヤック」というものがあります。海鳥をアザラシの体内に詰め込み、地中に埋めて発酵させるという、非常に特徴的なものです。

アザラシは腹を割いて内臓と肉を取り出し、海鳥は放置して冷やした後で、羽根はむしらずにそのままアザラシの体内に詰め込むと言われています。その後アザラシの腹を縫い合わせ、地中に埋めて数ヵ月から数年熟成させるようです。
食べるときは、アザラシの体内から海鳥を取り出し、発酵して液状になった内臓を、総排出腔(排尿口・直腸・生殖口を兼ねる器官のこと)からすするほか、肉や脳味噌なども食べると言われています。

このキビヤック、非常に臭い食べ物としても知られているようですが、発酵によってビタミンが生成され、イヌイットにとって貴重なビタミン源だとも言われています。

DHAなどへの注目はイヌイットの食事から?

体にいいとして注目されることの多いDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エンコサペンタエン酸)。青魚などに含まれるとされる脂肪酸ですが、その名前を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
これらが健康にいいのではないか、と注目され始めたきっかけは、イヌイットの食事にあったと言われています。

心筋梗塞や脳梗塞など、脳血管系の疾患がイヌイットに少ないことや、血液がサラサラしていて、一回出血すると止まりにくいことが注目され、疾病に関する調査が行われたと言われています。
伝統的な食生活を送るイヌイットと、デンマークに移住し、一般的なデンマーク人に近い食生活をしているイヌイットについて調査が行われた結果、移住したイヌイットについては、生活習慣病や脳疾患系の患者が、比較的多く見られたと言われています。
加えて、伝統的な食事をしているイヌイットの血中には、DHAやEPAがかなり多く含まれていることもわかり、脳血管系の疾患に対する魚の脂肪の効果が、注目されるようになったようです。
イヌイット特有の魚や、魚をたくさん食べている海獣を食べることの多い食生活が、このような結果を生んだと考えられています。

平均寿命が短い?

ガンなどの疾病が少ないと注目される一方で、イヌイットの平均寿命は比較的短いとも言われています。そう聞くと、やはり肉食中心の食事がよくないのでは?と感じる人もいるかもしれません。

しかし平均寿命の短さについては、食事以外の要因が大きいと言われることが多いようです。要因として考えられるものに、出産時の死亡率や乳幼児の死亡率の高さなどがあると言われています。また、狩りや漁などでの事故で亡くなるケースも少なくないようです。住環境の過酷さもあり、平均寿命の短さの原因を、その食生活だけに求めることはできないでしょう。

糖質制限とイヌイットの食事

穀物を食べないイヌイットの食生活は、糖質の摂取量を抑える「糖質制限」に通じると言われることもあるようです。糖質制限については、糖尿病の食事療法のみならず、ダイエットのために実践しているという人も多いのではないでしょうか。

糖質制限は、肥満などに高い効果があると言われることが少なくない一方で、長期的な健康への影響が疑問視されることもあるようです。ご飯やパンなどの食べる量を減らすと、どうしても肉や卵など、カロリーや脂質の多い食品の摂取量が増えてしまいがちです。

そこで引き合いに出されることがあるのが、イヌイットの肉食を中心とした食生活です。確かに伝統的なイヌイットの食生活は、穀物をほとんど摂らない、いわゆる「スーパー糖質制限」であると言うことができそうです。

しかしながら、イヌイットの伝統的な食事と、私たちが行うことのできる糖質制限とを比べるのは、難しいとする意見も見られます。イヌイットの食事は生肉を中心としていますが、一方で私たちが肉を食べる時は、加熱したり、調味料で味を付けたりすることがほとんどです。生の肉をそのまま食べるという機会は、あまりないのではないでしょうか。
新鮮な生肉をそのまま食べるのと、油や調味料を使って調理したものを食べるのとでは、まったく同じであるとは言い難いでしょう。

イヌイットと私たちとでは、食生活や住環境などに関して大きな違いがあります。少なくとも、単に「穀物を食べない」からと言って、私たちが実践を考えるような糖質制限とまったく同じであるとするのは難しいことではないでしょうか。

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